2004年度アジア政治論講義への質問・回答<9>
(6月15日配布分)川島 真(shin@juris.hokudai.ac.jp)
【講義への希望・要望・感想】
〈温度〉
|
ところで、私はこの教室、いつも寒いです。(5月25日分、学部三年) |
→こればかりは個人差がありますからね。様子を見ます。
〈回答への感想1〉
|
4月27日の私の質問に対する返答ありがとうございました。あのときは敢えてナショナリスティックな質問をしてみたのですが、先生は正面から相手にしてくださいました。大変感謝しております。お察しのとおり、私はプリンス・オブ・ウェールズ撃沈といった話に興味がありますが、日本軍が南京で虐殺をおこなったことや、従軍慰安婦の問題を平然と肯定するような類の人間ではありません。この問題は程度の差はあっても、同じ敗戦国ドイツにおけるアウシュビッツのような現象と理解しております。“個々の戦闘レヴェル”と“トータルとしての戦争レヴェル”とでは、次元が違う話であるとのことですが、まさしくそのとおりだと思います。私自身、「歴史にifはない」をモットーにしておりますので、たとえばドイツ軍がバルバロッサ作戦中、キエフよりもモスクワ攻略を優先していれば、ソビエトに勝ったかという話は不毛だと考えます。この意味で、私の質問は愚問の感がありました。私のしたような質問は、悪く言えば思考停止の感情的なところから出てくるものでしょう。しかしながら、日本の歴史教育(少なくとも高校までの)は“考えさせる”ことを生徒に促してきたとは思えない。今回の先生の回答に考えさせられました。今後の講義も期待したい。以上。(PS これは感想です!(5月25日分、学部三年) |
→ご丁寧な感想をありがとうございます。歴史教育の問題もありますが、“考えさせられる”こともなく、“考えられる”ようになりたいですね。
〈回答への感想2〉
|
著作権の問題で、「親と子の関係のように」という言葉が質問表にあったのには私も違和感がありました。この問題に限らず、主権国家の間に親子間の関係が成立するとは到底、次元の違う話だと思いますし。(5月25日分、学部三年) |
→そうですねえ。確かに違うレベルですね。
【講義の内容】
〈北朝鮮関連〉
|
(1)
ラチ問題について。ラチ被害者の夫でアメリカ人のジェンキンスさんは難民ではないのですか?政治的、思想的に弾圧されています。戦時中の犯罪を糾弾するならば、ヴェトナム戦争で人を殺したアメリカ人はすべて犯罪者である。戦時では部分的に価値観が逆転することがあります。アメリカがそのときの敵前逃亡の事実を今更に裁こうと言うのならば、ジェンキンスさんは立派な難民です。よって日本は難民として彼を受け入れることができる。(5月25日分、学部三年) (2)
今週話題になっている拉致被害者家族帰国に関連したお話がとても興味深かったです。対朝外交と被害者、メディア、外務省、小泉首相、一般国民感情が複雑に絡み合っているということを痛感しました。物事を多角的に、批判的に捉えて自分なりの意見を持たなくてはなりませんね。拉致被害者やそのご家族の心情(小泉への期待、失望)は私には量り知れないのですが、行方不明10名、曽我さんのご家族についての外交に期待するしかないと思います。小泉外交は今年の選挙に向けたものだ、年金未納から話題をそらすためだと騒がれましたが、私としては、よくやったほうだと思います。Keep
going!(5月25日分、学部三年) (3)
お話によると、現在は北朝鮮に援助をして金正日政権を保持していこうという考えが主流のようですが、北朝鮮内部でクーデターがおこって金正日政権が崩壊する可能絵師はないのでしょうか。また、もし仮にそのような事態になった場合、中国・韓国など他の国々はどのような対応をすると思われますか。(5月25日分、学部三年) (4) 今日の日朝外交の話、目からウロコが落ちました。戦争の恐れという見方は普通に新聞を読んでいるだけではできないと思います。(5月25日分、学部三年) (5)
なぜ北朝鮮が核兵器を持つと中国は困るのでしょうか。将来的に敵対する可能性があるということですか。(5月18日、学部三年) (6)
極端な話ですが、日本と北朝鮮が武力行使にいたったら、どちらが勝ちますか(どうなりますか?)(純粋な戦力、実情に鑑みて、おそらく米軍がバックにいるので負けることは無いとは思うのですが)(5月25日、学部三年) (7)
もし北朝鮮に対する経済制裁をやったら、その後、北韓鮮と戦争状態になることはあるでしょうか。確かに、日本国民は、北韓への制裁に対しなんら覚悟せず、また知識人も議論の及んでいない人が多いと思います。しかし、北韓側も戦争をやる覚悟はないと思います。日本にテポドンを撃つことでは可能ですが、米国はじめ諸国によって大反撃を食らうと思われ、これにより金正日政権は確実に瓦解すると思います。このリスクを金政権は覚悟するでしょうか。以上より、たとえ日本が経済制裁しても、北韓(金正日政権)には戦争を勃発させる現実的な許容性がないと思うのです。ならば、北韓で今この瞬間苦しんでいる人々を救う手立てをするためにも漸進的な政策(金政権維持)でなく、急進的な政策(経済政策など)を推進すべきと考えるのですが、どうでしょうか。食糧支援したところで、その食糧は飢えて苦しんでいる人々には届きません。金政権の軍部を肥やすだけです。僕は許せません。(5月25日、学部三年) |
→(1)いつもながらに厳しいご意見、ありがとうございます。まず、難民の定義がいりますね。難民条約における定義は、「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の講成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐肺を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」ということになります。ただ、同時に「新たな国籍を取得し、かつ、新たな国籍国の保護を受けている場合」にはその限りではないということになっていますから、ジェンキンスさんが朝鮮民主主義人民共和国国民となっているかどうかがポイントになります。次に、ジェンキンスが脱走兵として「亡命」したという行為とこの難民の定義との関わり、そして難民認定が問題となります(亡命者とは何かということは結構大きな問題です。昭和42年の国会でも議論がありました。赤間法務大臣の発言をごらんください。http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/057/0488/05712140488002a.html) また難民認定は「申告」をするわけですから、ジェンキンスさんが認定されることを望むかということもあります。このあたりが問題ですね。このような問題をすべてクリアして、もし難民認定をされたとして、日本が彼を難民として受け入れるのかどうかということもまた問題です。日米安保を考えた上で、脱走兵を日本が難民として受け入れるということは、多くの米軍基地を抱える国としてどのようなリスクを背負うことになるでしょうか。地位協定、そのほかに影響しないでしょうか。そしてアメリカにとって、脱走兵を難民と認定する国はどのように見えるでしょう。こうしたことを総合的に見た上で判断すべきと思います。
(2)そうですね。日本国内のメディアの視線だけしかもちえない、メディアで言われていることしか頭に浮かばないとしたら、それはもう思考停止状態ですからね。そのあたりのこと、少しずつ批判的に検討できるようになっていただければと思います。
(3)金政権に対するクーデターがおきるというオプション、そうすることで事態を打開するオプションがないとは言いませんし、そうした可能性がないともいいません。しかし、現在の北朝鮮において、どのようなクーデターが想定されるでしょうか。相対的な問題として、金政権は「改革開放/社会主義・市場経済」型の政権になりつつあります。そうした中で、より開放型の、あるいは親米型の政権がクーデターにより成立するとは言いがたい気がします。クーデターで成立するのは、むしろ保守型の政権ではないでしょうか。すなわち、金政権の改革開放路線を否定する保守派が軍部とともにクーデターを起こす可能性のほうが高いと思われます。北朝鮮に金政権以上の開明派がいるかどうか、それが軍部とともにクーデターをおこすほどの力を持ちえるか、はなはだ疑問です。保守派がクーデターをおこした場合、頼るのはロシアか中国、民族主義者ならば韓国でしょう。しかし、中国もそこまでのリスクは乗れないでしょう。
(4)そうですね。全面戦争はないにしても、戦闘/テロは想定すべきと思います。
(5)東アジアで核兵器を持つ国は中国だけです。だからこそ、アメリカと対等に対峙できます。また、北朝鮮の対中外交は必ずしも平坦ではありませんでした。また現在の核兵器保有国は基本的に、核保有国が増加することを歓迎していません。
(6)戦闘行為それじたいにおいては日本側のほうが有利でしょう。戦力比較において、日本が圧倒的に優位にあるものと思われます。しかし、問題は戦争をする体制です。北朝鮮はすでに動員型の非常事態を前提とした国家です。日本は、パニックに陥る可能性がありますし、政治的社会的安定が一気に損なわれる可能性があります。こうなると、国家としてはなるべく危険は回避したほうがいいということになると思います。
(7)なかなかファンダメンタルで、かつ有意義なご意見だと思います。まず、「戦争」ですが、小生が授業で申し上げたのは、「戦争」というよりも、「テロに近い行為」ということでした。これは無い、と言い切れるでしょうか。他方、経済制裁を加えた場合に生じるリスク(本当に政権が倒れる、難民が多く発生するなどなど)について、日本は責任を負う覚悟があるでしょうか。そのあたりが問われるのだと思います。