2004年度 アジア政治論 採点講評

 

【評価】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

三年生 優24名、良55名、可 44名 不可18

四年生 優 2名、良 9名、可 9名、不可4

大学院生 優 4名、良 2名、可 1名 (研究生などは除く)

全体 優 32名、良 66名、可 55名、不可 23名)

 

A=10、B゜=9、B=8、B´=7、C゜=6、C=5、C´=4、D=3

という8段階で計算し、「原則として」合計点が17点以上で優、14点以上で良、10点以上で可としたが、ボーダーラインについては適宜調整した。

 

【採点講評】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

     総合講評

   出題意図は、講義内容を縦糸とすれば、それに対する横糸を提示して、それに基づいて再度講義内容を整理しなおすことである。だが、整理しなおすというのは、単にレジュメのメモをパッチワークのようにつぎはぎすることではない。いろいろ調べたりしながら再吟味、再検討することである。

   答案については、総じて、安易な回答が多かったという印象である。良や可が圧倒的多数を占めたのもそのあらわれであるし、不可も一定数出たのも、あまりに安易な回答が目立ったからであろう。きちんと調べること、また考えること、そして自分の言葉に実質がこもっているか再吟味すること、などについて、よくよく考えてほしい。適当にウェブ上でキーワード検索して、それをダウンロードして回答したものが目立った。別に悪いことではないが、自分で考えて検討するという過程が完全に欠落している。しかし、しっかり問いを受け止め、自分で考えて回答したものも少なからずあった。そうした答案は、多少危ういところがあっても「AB゜」にした。他方、全体として無難にまとめながらも、あまりに酷いミス、事実誤認をおかしたものは、「C´D」とした。

 

いま一度、試験問題と評価基準を見てみよう。

 

●試験問題

(1)   中国は、どのようにして政治的に「中国」として維持されているのか。

(2)   現在の中央政府および共産党のもつ正当性について論じなさい。

(3)   「外交」についての代表的な定義を複数示し、それをもとに中国外交の特徴を検討しなさい。

(4)   二十世紀の日中関係について、その歴史を整理したうえで、現在の懸案事項について、歴史的な観点を交えて考察し、具体的な解決方法を示しなさい。

 

●採点基準

(1)     採点基準は、第一に問いに答えているかということ。第二は、論理性、妥当性。第三は、オリジナリティ。第四に表記。

(2)     授業で話した内容に従う必要はないが、反論する際には、「反論している」ことを意識し、その根拠や事例などを明示しながら述べること。そうした意味では、ノートを全体的に見直すことを求めたい。

 

以下、各問別に見てみたい。

 

(1)     中国は、どのようにして政治的に「中国」として維持されているのか。

 

一番つらかったのが、中国は中華思想で維持される、という答案。そしてひたすら、地方自治とか郡県・封建とかを述べたもの。中華思想については、授業中、あれほど懐疑的に取り上げてきたのに、プリントにその言葉が書いてあったから、すぐに使った学生が多かったようだ。ノートをとっていないのだろうか。また、中央・地方関係、地方自治などの統治方法を縷々述べた答案にも辟易気味であった。それもたしかに重要だが、たとえば中国が内的に分裂しても、「中国が維持された」という授業での説明を想起すれば、そこが必ずしも要件でなかったことを理解できるだろう。他方、歴史的な記述が混乱していたものがいた。なお、市民社会に拘泥した答案も散見された。それでもよいが、市民社会がないと国家にならないといった方向性はいかがなものか。

他方、共産党政権の正当性について縷々述べた答案も(2)と混乱しているような印象を受けた。なぜ(2)が設けられていたかのかと言えば、それは要するに(1)とは違うからである。

 今一度問いを見てほしい。「中国」に括弧をつけたのは、「中国」が「中国」として「ある」のは、決してアプリオリに規定されていることではないということ、つまり中国もまた創出されたことを意識するためである。従って、まずはここで自分が「中国」をどのように捉えたかを示してほしかった。中華人民共和国政府と自動的に読み込んだ答案が多かったが、そうではない。この問題は、中国はなぜ分裂もせずに中国として維持されえるのだろうかという問いである。従って、いまの共産党政権による統治のありかたや正当性、また中央・地方関係についていくら書いても、それは一部分に過ぎない。より歴史的な観点が求められている。基本的なアプローチは、清代までの言語の普及、価値観の共有、漢字の使用などがある。科挙や官僚制などが重要と成ろう。次に、19世紀半ば以降の「中国」の形成過程。省の建設、主権国家としての「中国」形成が重要である。20世紀前半は、主権国家化と同時に国民国家化が始められるが、領土的な危機などから、「中国」ナショナリズムが前面に押し出される。1949年以降は、中華民族論が形成され、民族自決を否定し、そして以前に増して強力な国家・党の権力を確立して、教育・宣伝などを利用して国民形成を推し進めつつ、分裂運動を取り締まる事になる。しかし、台湾やウイグルはこれに対して挑戦している。・・・といったことになろうか。

無論、これ以外の答案はありえる。より政治理論的に答えたものもあれば、きわめて独自であるが、自分の頭で妥当に考えたものなどにはAを出した。また、上記のように、こちらが想定したとおりの方向で回答したものもあった。上記に述べたような概要が半分以上しめされていればB。事実誤認などがあれば、Cになる。Dは、ストライクゾーンにかすらなかったか、致命的な間違いをしたもの。

 

(2)現在の中央政府および共産党のもつ正当性について論じなさい

 

 この問いは意外に難しかったようである。

「革命・ナショナリズム・豊かさ」の三点を羅列し、それぞれ説明しただけの答案はB´。また、革命のところで、つらつらと「命を革むる」といった「伝統的理解」を掲げたり、ナショナリズムのところで中華民族の話だけを取り上げたり、豊かさを改革開放以後ではなく49年の解放直後だけに限定したものなどは、原点され、Cなどとなっているはずである。

 まず「現在の」なのだから、歴史的な話を長々と書くことは求めていない。次に「中央政府および党」については、きちんと吟味してほしい。党から国家へ正当性の基軸が移動していることを考慮しての問いだったので、まずきちんと何故制度的に「党の指導が保障されているか」ということや、三つの代表などによって党の立場が変容してきていることを説明してほしかった。さらに、上記三者を並列するのではなく、それぞれの関連性、またそれぞれと党、国家の関わりについて触れてほしかった。特に、解放後の正当性の変容過程などが欠落した答案が目立ったが、そこを説明しないと、三者が正当性の要件となってきた過程がわからなくなる。

 他方、「西欧型民主主義」を基にして、中国を批判し、このままでは政権が維持できない、などとした答案が目立ったが、本講義でどのようなことを述べてきたのか思い出してほしい。反論する際には、きっちりと根拠を挙げながら反論してほしかった。形式的な選挙、議会制民主主義の採用によって、中国がそのまま維持されるとするならば、それはそれで十分議論に値するが、いまのところそれに対しては疑問符が付されている状態にある。なお、共産党自身が多分に「民意」に配慮した政党であること、政府もまたそれを重視していることに言及した答案が思いのほか少なかった。「天意・天命」などとはぐらかさないで、中国政府が必死になって自らの正当性を保とうとしている姿を描き出した答案は多くなかった。この点がわからないと、共産党やいまの中央政府の統治以外のオルタナティブがなぜ想定されていないかという問に応えられず、そして単純に「統制している」から、「影で反対者を潰しているから」共産党政権は維持されているのだ、といった極端な回答になってしまう。中国では、実際のところ「議会制民主主義」、あるいはそのほかの西欧型民主主義を求める声は意外に多くない。それが中国の安定にふさわしい制度であるか不分明だからである。だが、民意の反映、異議申し立て、それを求める声はきわめて大きい。そこが、革命・ナショナリズム・豊かさに次ぐ、今後の政権にとってのポイントになるのである。(市民社会形成につながる、さまざまな意味での「自由」については、今後中国内部でコンフリクトがあることが予想される。)

 

(3)「外交」についての代表的な定義を複数示し、それをもとに中国外交の特徴を検討しなさい。

 

 これも問いを読み見てほしい。外交の定義をしっかりと示し、それとの関連で中国外交の特徴を論じることになる。いわば中国外交の特殊性を一般的な定義との関連で見ることになる。この両者が分離していては問いに応えたことにはならない。また、「外交には政治的、経済的、文化的の三種類がある」などという、中国外交から逆算して「定義」を記したものも、「代表的な定義を示した」ものとは思えない。こうした回答は、自動的にB´以下として採点した。 

代表的な定義としてはニコルソン、サトーらのものがあるが、少なくとも『外交』に関するテキストなどを紐解き、そこにある定義をしっかりと押さえ、それと中国外交を比べてみてほしかった。外交の定義を示し、それと比べて中国外交には差異があるのかどうか。そういった、欧米中心の定義概念とアジアのそれとの間の比較的観点、そうしたものをこの問いは求めている(場合によっては、特徴を見ようとすることじたいがナンセンスだという回答もありえる)。他方、中国外交の特徴について、19世紀以前にさかのぼってもそれはどうであろう。あくまでも「外交」の成立をどこに求めるかによるが、中国「外交」の特徴を朝貢の時代に求めても、それでは不十分だろう。もし朝貢を特徴として一義的に挙げるなら、外交の定義を「(朝貢を含む)諸関係」におとさねばならない。そうしないと朝貢に基づく関係を外交に含められないからである。こういったきちんとした議論をしてほしかったが、そこまで踏み込めたものは殆どなく、きわめて安易な回答が多かった。

特に目立ったのが、中国の外交は政治・経済・文化がわかれている、というものであった。これは授業で紹介したが、それは外交部という組織と対外貿易経済合作部、文化部の問題として述べただけであって、それが果たして外交の特徴であるかどうかは吟味が必要である。日本とて、そうした現象があるのであるから(経済産業省、文化庁がおこなう対外関係)。このほか、全方位外交など、「政策内容」を特徴としてしまい、前半の「定義」となんら関係ないことをとうとうと述べた(というよりもウェブ上のある先生の文章を丸写しした)ものが目立った。これは本文の主旨をふまえない答案であろう。

 

(4)       二十世紀の日中関係について、その歴史を整理したうえで、現在の懸案事項について、歴史的な観点を交えて考察し、具体的な解決方法を示しなさい。

 

 20世紀の日中関係について整理する、ということと、現在の懸案事項を「歴史的な観点」交えて考察するのであるから、前半の「整理」する部分と懸案事項がリンクしなければならないのだが、そこをさらりと流して年表のように整理するものが多かった。教科書問題をはじめとする歴史問題、台湾問題、いずれにしても日中間の歴史的な経緯の中でうまれてきている問題であることは授業で繰り返し述べたところである。そうした問題の成り立ち、問題としての生成過程、解決へ向けての努力、問題点などを整理してほしい。(問題それ自体については、いくつ挙げてもいいが、書ききれる範囲で)

 具体的な解決方法について、「今後は正面から向き合った対話が必要だろう」とか、「政府レベルで互いに信頼感を高めるように対話していくことが求められる」といったようなものは勘弁願いたい。例えば、戦後補償問題について、「きっちり補償すべきだ」ではなくて、なぜそれができていないのか、できていないならそれはなぜか。きっちり補償すべきというなら、いまできないでいる問題点をいかに克服するのか、きっちり、とはどういうことか、などといったことを一つ一つつめてほしい。そうでないと、逆に無責任発言になってしまう可能性がある。こうした点について、大学院生の答案であったが、中国の対日債務を帳消しにすることで補償とするなどという具体的提案があったことは(その内容については別にして)歓迎すべきことであった。(了)