04年4月21日

第一回・国際地域政治研究「中国・台湾」

<質問・回答>

川島真(sihn@juris.hokudai.ac.jp)

 

<時事関係>

靖国問題・教科書問題は日本国内の問題だといわれましたが、中国側・韓国側から見れば、靖国に祀られる人たちというのは、国土を踏み荒らし、人を大量に殺し、たくさんの人々を強制連行させた、あるいは命令した人々である以上、そこに首相が行くというのは、その人々の行為を肯定することになるということなので、批判するのは当然であると思います。あと首相がいくら平和のためとはいえ、靖国には軍人だけ祀っていて、広島や沖縄の摩文仁の丘のように、軍人・民間人や人種を問わずに祀っているような施設ではないので、中国・韓国に理解されることはまずないと思います。もっともあまり積極的に詳しい理由を言っていないようないからかもしれませんが。どうでしょうか。                                (学部四年)

 →彼らが批判するのは当然でしょう。しかし、主権国家として、一国の首相の行為を、あるいは教育権にかかわる問題を外国から批判されたことを理由に変更することは困難でしょう。解決には、根本的な戦争責任論を国内でおこない、国(国民)の判断として示さねばならないと考えます。先日の福岡地裁判決などは、司法の側から首相の靖国参拝の「違憲」性を指摘し(判決として確定するが、拘束力はない)、首相に参拝それじたいについて「私人として」行っていると明言させたわけですから大いに意味があります。また、靖国だけに参拝することの妥当性も当然問われてしかるべきでしょう。8月15日には毎年、天皇、首相など三権の長を集めた戦没者のための集会が武道館で開かれます。こちらに参加することについては、そこまで強い反発が国外でおきていません。そうした意味で、なぜ「神社」に「参拝」しないと、平和を祈念することができないのか、戦没者の慰霊ができないのかという疑問もあるでしょう。しかし、こうした議論が、首相の支持率とか、与党支持率、あるいは投票行動に結びつきにくい以上、実際には大きな変更が加えられないことになります。

 

ODA関係〉

中国の国家賠償の放棄の背景をもう一度教えてください。(学部4年)

→ 1952年の日華条約で中華民国が「賠償権放棄」(役務賠償のみ定める)。1972年の日中国交正常化に際して、中華人民共和国は中華民国と日本の間に締結された日華条約の継承を拒否。新たに日中共同声明(1972年)、日中平和友好条約(1978年)において「請求を放棄」しました(権利は保留したと理解されます)。具体的には日中共同声明の第五条「中華人民共和国政府は、日中両国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」という文言です。中華民国の賠償権放棄はアメリカからの圧力に由来しますが、中華人民共和国は「友好」との引き換えになっている点が要注意です。

 

メディア(特にテレビ)で知ったODAと真のODAの姿にこんな開きがあるのか理解できました。

                                                  (学部四年)




→ありがとうございます。

 

日本がおこなっているODAの有償・無償の割合はどれくらいなのでしょうか。そして中国はどこにどれくらいの援助をおこなっているのでしょうか。(学部4年)

2001年ベースで有償が1613億円、無償が63億円、技術協力が82億円となっています。中国のどこにどれくらいというのは外務省のODAホームページを見てみてください。http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index.html全体的に内陸部に移行しているのが見て取れると思います。

 

<経済発展>

中国は国内総生産が世界6位になったらしいですが、国土が広いだけに貧富の差がより広がっていて、これからももっと広がると思います。そのことに対する対策は積極的におこなわれているのですか?                                                        (学部4年)

 →確かに急速に拡大していますね。上海市と貴州省の間には十倍の格差があるものと思います。一般的に、沿岸部が豊かになり、内陸部はそうでないといいますが、必ずしもそうではありません。たとえば雲南省など内陸部にあっても、隣接する東南アジア諸国との貿易によって豊かになったところもあります。さて、ケ小平は先富論を唱えました。社会主義では、貧富の格差がタブーなのですが、まず先に豊かになる者がいることを肯定し、最終的に皆が豊かになるとしたものです。これによって中国の社会主義・市場経済が進展しました。しかし、実際に「皆が豊かになる」ことは簡単ではありません。そこでまずおこなわれたのが、「西部大開発」です。これは沿岸部の富を西部に回すもの。1990年代から2000年代初頭までおこなわれています。他方、東北部(満洲)に対してもこうした援助をすることが昨年から実施されていますが、資金繰りが難しく、ODAに頼っています。対策はとられているけれども、結果は未知数といったところでしょうか。

僕は就職活動で色々な会社を回ったのですが、ほとんどの会社は中国への設備投資に力をいれているらしいと言っていました。しかし、食品加工などもやっている某食品貿易商社の社長は、「近い将来、中国人の生活水準はあがり、人件費も上がるので、中国に工場を作る予定はない」と言っていました。僕はこの考えに賛成というか、理解できます。どう思いますか?(学部四年)







→そういった側面はあるかもしれませんし、企業行動もまたここの企業の判断に任されているので、一概に何が正しいと言うことはできないのですが、中国が広く、人が多いという要素をどう考えるかがポイントです。つまり、上海はじめ沿岸部がいくら豊かになろうとも、内陸部に広大なフロンティアがあり、そこから廉価な労働力が供給されるのです。問題は、この内部の廉価な労働力の供給源がいつまで維持できるかということです。これが維持できているうちは、生産基地としての中国は維持されるでしょうけれども、ここが消滅したら、技術立国を志向しないと経済発展を維持できなくなります。

 

<言語>

中国の言語の話が面白かったです。台湾は、日本語で教育を受けた世代の方々がまだ健在だと思いますが、日本語が台湾の人々の言葉に与えた影響はあるのですか?(学部4年)

 →日本が台湾を統治したのは51年。1945年の時点で10歳であった人が、今年69歳です。皆さん、健在ですが、次第に社会での影響力は低下して来ています。李登輝のように、日本統治時代に高等教育まで受けた世代は80歳近くなっています。台湾は「親日」などと言いますが、これらは基本的に国民党政権に対する反発からくるものです。そして、実際に日本語を操る、日本統治時代に教育を受けた層がいたからです。いま国民党が政権党で無くなり、日本語を操る世代がいなくなって来ています。今後の日台関係はとても難しいところに来ています。さて、言語ですが、確かに大きな影響があります。台湾語、そして戦後まで日本人が多く残った山間部の言語(原住民、高砂族の居住地域)に強い影響を与えました。しかし、それはシンタクスなどの根本部分に対する影響というよりも、単語レヴェルの影響ですね。台湾映画の代表作である「多桑(DUOSAN)」も日本語の名残ですし、「おばさん」、「弁当」などが台湾語の中に残り、いまでも使われます。そして、平仮名の「の」は街中でよくみかける日本語です。

 

<GDPについて>

いつからシンガポール、香港はGDPが三万クラスになったのですか?(学部四年)

 →3万には達していませんが、ともに20000を超えています。香港の一人当たりGDPは、25,003ドル。しかし、1997年は僅かに2700ドルでした。90年代に25000ドル程度に達しました。東南アジア諸国については、以下に統計を示しておきます。

http://www.asean.or.jp/general/statistics/statsitics03/01basic/05-02.html

 

 

Year


Country

1970

1980

1990

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

ASEAN

Brunei Darussalam

B$)

 

 

(25,685.00)

(25,157.00)

(25,284.00)

(21,111.00)

(22,546.00)

(22,910.00)

(21,526.00)*

(21,570.00)*

(US$)

 

 

14,171.03

17,841.84

17,028.56

12,614.13

13,301.47

13,288.86

12,014.29*

12,046.24*

Cambodia

(Thousand Riel)

 

 

 

(738.74)

(900.40)

(955.61)

(935.37)

(939.70)

(945.34)*

 

(US$)

 

 

 

281.52

305.60

255.21

245.65

244.66

241.25*

 

Indonesia

(Thousand Rupiah)

(27.96)

(308.13)

(1,174.87)

(2,706.00)

(3,140.52)

(4,675.44)

(5,301.40)

(6,090.64)

(6,939.93)

 

(US$)

77.06

491.43

637.55

1155.28

1079.44

466.91

674.89

723.20

676.35

 

Laos

(Thousand Kip)

 

 

(147.61)

(359.52)

(447.15)

(842.94)

(2,001.74)

(2,618.97)

(2,901.85)

 

(US$)

 

 

208.57

390.35

354.89

255.57

281.86

332.03

324.06

 

Malaysia

(Ringgit)

(1,169.87)

(3,891.09)

(6,579.06)

(11,985.45)

(13,009.93)

(12,770.20)

(13,243.68)

(14,703.78)

(14,785.20)

 

(US$)

382.16

1,787.45

2,432.28

4,763.88

4,624.60

3,254.05

3,485.18

3,869.42

3,890.84

 

Myanmar

(Kyat)

(386.13)

(1,147.71)

(3,749.78)

(17,572.22)

(24,454.11)

(34,656.10)

(46,493.33)

 

 

 

(US$)**

-

-

-

-

-

-

-

 

 

 

Philippines

(Thousand Peso)

(1.15)

(5.04)

(17.52)

(30.21)

(33.00)

(35.46)

(39.82)

(43.35)

(47.19)

 

(US$)

194.89

671.48

720.71

1,152.24

1,119.84

867.23

1,018.82

980.90

925.48

 

Singapore

(S$)

(2,804.35)

(10,411.20)

(22,007.95)

(34,943.87)

(37,012.93)

(35,106.63)

(35,460.76)

(38,713.80)

(37,156.17)

 

(US$)

916.09

4,862.32

12,142.32

24,782.89

24,927.89

20,976.72

20,920.80

22,455.80

20,737.94

 

Thailand

(Thousand Baht)

(4.05)

(14.18)

(39.10)

(76.85)

(78.10)

(75.64)

(75.25)

(78.70)

(81.08)

 

(US$)

194.85

692.53

1,528.35

3,032.40

2,489.98

1,828.97

1,989.88

1,962.05

1,824.80

 

Vietnam

(Thousand Dong)

 

 

(633.47)

(3,609.83)

(4,177.20)

(4,743.35)

(5,185.97)

(5,684.72)

(6,118.87)

 

(US$)

 

 

97.72

327.19

357.54

357.50

371.94

401.24

415.54

 

China

(Yuan)

 

(456.88)

(1,585.74)

(5,483.07)

(6,026.23)

(6,300.58)

(6,536.45)

(7,007.84)

(7,674.55)

 

(US$)

 

304.91

331.52

659.48

726.95

761.03

789.59

846.51

927.20

 

Japan

(Thousand Yen)

(702.94)

(2,082.31)

(3,578.84)

(4,061.72)

(4,139.46)

(4,080.65)

(4,041.35)

(4,047.72)

(3,952.44)

 

(US$)

1,952.62

9,183.70

24,717.44

37,338.86

34,213.26

31,171.42

35,478.45

37,558.86

32,522.36

 

Source:

International Financial Statistics Yearbook 2000 (International Monetary Fund)
International Financial Statistics Yearbook 2002 (International Monetary Fund)
International Financial Statistics May 2003 (International Monetary Fund)
Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries 2002 (Asian Development Bank)
Brunei Darussalam Statistical Yearbook 1999 (Ministry of Finance, Brunei Darussalam)
Brunei Darussalam Statistical Yearbook 2002 (Department of Statistics, Department of Economic Planning and Development, Prime Minister's Office, Brunei Darussalam)

Note:

1)一人当たりGDPは、名目GDPを人口で除して日本アセアンセンターにて試算。
2)日本アセアンセンターにて米ドルに換算。為替レート=IFS(IMF)期中平均(但しカンボジアはADB発表為替レートを使用)
3)ブルネイドル為替レートはシンガポールドルと等価。
4)*暫定値
5)**表中の公定為替レートは実勢レートとの乖離が大きすぎるため、公定レートによる米ドル換算は記載を控えた。
1)Nominal GDP per capita figures are calculated by the ASEAN-Japan Centre by dividing Nominal GDP by population.
2)Each currency is converted into US$ by the ASEAN-Japan Centre. (exchange rate=period average. IFS of IMF except for
Cambodia=ADB)
3)Exchange Rate of Brunei $ is equal to that of
Singapore $.
4)*Provisional Figures
5)**Because there is a divergence of rate between Official Rate and Market Rate, GDP in US$ term is not listed.