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第九回北大亜洲研究会(第222回東洋史談話会と共催)

日時:2005年7月19日(火)16:30~
場所:新棟W301教室

題名:「中国近代株式企業の三つの類型」※通訳つき
発表者:朱 蔭貴氏(復旦大学歴史系教授)

参加記

 中国経済史の第一人者で、現在東京大学社会科学研究所にいらしている復旦大学の朱蔭貴先生をお招きし、「中国近代株式企業の三つの類型」と題する講演が行われた。そこでは、近代中国株式制企業の資金調達について、三つの類型が説明された。
 第一に、「官利」制度による資金調達であり、これは企業の経営状況とは無関係に一定の利率の配当を株主に保障するというものであった。これは、政治体制が変化しても存在し続け、その理由としては、①伝統的に高金利社会であったこと、②従来の土地と高利貸しという投資経路を変革するために、一定の報酬の保証を与える必要があったこと、③「合股」などの形式で類似の利潤分配制度が既に存在していたこと、が挙げられる。この「官利」制度により資金調達が効果的に行なわれた。
 第二に、株式制企業による預金の直接的吸収である。これは、銀行等を介さず企業が直接社会から貯蓄預金を吸収し、企業資金にしたという特徴を持つ。これは前近代の中国社会に長期にわたり存在した経済制度の影響を受けており、またその資金コスト面での優位性ともあいまって、近代中国においても広く存在した。
 第三に、企業集団内部での資金調達である。近代中国において成立した多くの企業集団内部には、資金調達の面で一種の相互資金調達と調整が存在し、その利便性、利息負担の低さ等により、それは普遍的に行なわれた。これら3つの資金調達方式は、改革開放後の民営企業の中にも見られ、重要な役割を果たしている。第一、第二の要素は当局の取り締まりもあり、今後だんだんと消失していくと考えられるが、第三の要素は今後も依然として存続するものと推測される。そして、こうした歴史と現実の間に連続して存在する経営の伝統と資金調達の方式をいかに考え、位置づけるかが今後の課題であるとされた。
 質疑応答では、管理制度について、株主は投資する会社をどのように選択したのか、また倒産した場合はどうなったのか、という質問に対して、株主は会社の事業内容に対して興味がなく、金利が返ってくれば良い、という態度であったとし、また、初期には自らの面子(度量)を重視して倒産をあまり気にしなかったが、後には問題が発生するようになったものの、多くは会社創立時の株主に部分賠償がなされるだけであった。次に、なぜ「官」利というのか、という質問に対しては、恐らくは官に認められた基準であるということを強調し、それにより信用を得ようとしたものであろうとの回答がなされた。また、破産したときの社会負担をどう考えるか、という質問に対しては、これは問題であるが、現在までのところ大規模な倒産は発生していない、とした。本講演では従来あまり知られることのなかった近代中国株式企業の資金調達の実態を知ることができ、大変興味深い講演であった。なお、本講演は中国語で行なわれ、川島先生が通訳を担当された。

(記:北大法学研究科博士課程 柳亮輔)

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