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グレーゾーンを白黒に?-台湾・立法院選挙を前にして-(2004.12.10)

台湾のアイデンティティは大きく揺らぎ始めている。台湾化、民主化、この路線は確かに既定方針であるし、今後とどまることは無いだろう。しかし、台湾化の先にぼんやりと見えていた「台湾独立」は次第に難しいものとなってきている。結局のところ、台湾化の政治的な成果は、民進党政権を二期続けたことと、また国民党の弱体化、野党化ということだけだったのだろうか。この疑問は、結局のところ、これまでの問題が国際社会から「台湾」を如何に認知するかということよりもむしろ、台湾島中の状況の中に置いて説明されやすいことを示している。「結局何だったのか。何がかわったというのか。」このような虚無感は実際に強いのではないだろうか。無論、だからといって、統一しようとか、これまでの民主化、台湾化が誤っていたということにはならないのだが、それでも隘路にはいった感覚は否めないのだろう。こうした中で、李登輝は明確な論陣を張る。それは憲法改正を含め、台湾の独立を主張するものである。政府は必ずしも李登輝と同じ論陣をはっているわけではないが、「正名運動」に見られるように、「台湾化」の終着点を探し始めているように見える。既に台湾問題(この台湾に問題という詞をつけることには相当抵抗を感じるが)を国際問題であると認めた中国にとって、この独立への動きは国際社会への挑戦だと映るだろう。実際、アメリカもまた台湾の在米の代表処に「台湾」の名を冠することには反対を明言したし、実際に台湾が中華民国でなくなり、中国の正統政府であることを主張するのをやめたら、二重数カ国ある「中華民国を中国の正統政府として承認」している国家群もまた、政治的な判断を迫られることになってしまい、いまよりも「孤立」を深めることに成るかも知れない。中華航空が台湾航空になること、これは単に台北・香港線というドル箱が飛ばせなくなるかもしれないということだけでなくて、これまでのグレーゾーンを白黒はっきりさせることにもつながるのだ。台湾という存在は、グレーゾーンを多分にもった存在であり、だからこそ「国」際社会の中で一定の位置を占めることができた。だが、そのグレーを白黒にわけることは、運動の終着点、または選挙戦の上での戦略であるにしても、あまりに厳しいものである。「2008年までの北京オリンピック、2010年の上海万博までは中国は武力行使できない。」確かにそうかもしれない。しかし、台湾が台湾となったとき、国際社会は台湾を台湾として承認するだろうか。そこが問題である。既に台湾は、中華民国として一定の「主権」を限られた領域において行使していることを、「事実上」国際社会から認められている。この「底線」を自ら破壊して、0から新たな「底線」を構築しようということなら、「外交」努力、調整が必要であろう。台湾島内のアイデンティティ・ゲームだけでは、事はすまないからである。

台湾の立法院選挙が週末に訪れる。いまのところ、民進党が過半数を確保することが予想されている。これまで執政党でありながら、「野党」であった民進党は、これによって政権運営がスムースになる、と考えられている。前回の大総統選挙で、特に中部の地方派系に食い込んだことなど、国民・親民連合の地盤を崩しつつあることが、今回の立法院選挙でも響いているものと思われる。しかし、もともと複数会派の集まりである民進党において、絶対多数をとれない過半数での勝利は、やや微妙な含みを残すことになる。当然のことながら、民進党+台聯で与党となるのだろうが、民進党内部の一部の会派、台聯が反対行動をとれば直ちに与党案が否決されるような状況は従来の民進党にはなかったことである。党内統一をきっちりとはかれなければ、政権運営は相当難しいことになろう。そして、その党内統一のためにアイデンティティ符号を用いすぎることは危険である。

アメリカのブッシュ政権は、共和党=台湾より、民主党=大陸より、などという単純図式では捉えられない政権だろう。北京も、その反テロ政策の恩恵に浴している。台湾問題でアメリカは現状維持を以前以上に強調し、トラブルメーカーはむしろ台湾側であると捉え始めている。

「中国に飲み込まれるかもしれない」「いまこそ独立」ということはあるのだと思う。だが、いま、台湾が台湾であるための方策は、必ずしも「独立」だけにあるわけではないと感じるのだがどうであろうか。軟弱だとお叱りを受けそうであるが・・・(了)

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