MENU

上海食道楽(2002.11.11)

上海に行った。目的は打ち合わせ。街中には「十六大」の横断幕やネオンばかり。浦東の「森」ビルにまで「十六大」のネオンが出ている。まもなく北京で開かれる会議で「三つの代表」の路線が確定し、企業家が党員に加えられていくというが、上海の企業家にとって共産党員バッジなどひとつの資源獲得にすぎないはず。横断幕やネオンも、それを大いにキャンペーン化する北京への冷やかしに映った。

さて、仕事の話はさておき、十一月に無理をして強行軍で上海に行った目当ては上海蟹(大閘蟹)。ベストシーズンだからであるというだけでなく、三峡ダム完成の暁には食することができなくなるとか、味が変わるとか色々言われているからである。それに恥ずかしいことに筆者は、こうした皆が食べ求めようとするものをわざわざ食べるということをしない天邪鬼的性格で、それに何かの宴席で食した上海蟹もそれほど美味しいと感じたことは無かった。だが、これから食べられなくなるかもしれないということを聞いていて、その時期が差し迫ってくると、どうしても食べておかないと気がすまなくなってしまった。食いしん坊なのであろう。

初日は揚州飯店で湯包をストローですすり、二日目の昼にその上海蟹の老舗として知られる新光酒店に行った(電話 021-6322-3978、6361-6682)。何故夜は駄目かというと、次週の半ばまで予約で一杯だからだ。この店、天津路512号にある。上海一の繁華街である南京東路のすぐそばである(この地域は、貴州路、雲南路などと中国の各省・都市の名前の路が多い)。店構えは小さい上、店の一階は客用でない。そこにはフロアスタッフより多い15名近くが蟹の肉と味噌をとりわけて容器に入れる作業を白い割烹着を着てやっている。これがこの店の料理を支えている。蟹は当然産地と直接契約、産地直送である(陽澄湖付近のどこか地名を言っていたがきちんと聞き取れなかった)。北京のシュワ・ヤンロウ(■=水刷/羊肉、羊肉のしゃぶしゃぶ、この発音から日本語のしゃぶしゃぶという語ができたとされる)の名店も内蒙古の牧場と直接取引きをしているが、ここでも同じである。メニューはカニ料理が殆ど。注文したのは、看板料理。メニュー4番の「蟹膏焼銀皮」。蟹味噌をふんだんに使った炒め物。使った味噌は30パイ分とのこと。これが、美味などというレベルではなかった。蟹味噌の甘さとうまみは想像を絶した。そのあとは、雄雌(中国語では公母)一パイずつ。公のほうが美味しかったような気がする。あと
は蟹肉と味噌の麺。もう言うことは無い。酒のつまみには、?菜を頼んだ。これは恐らく寧波特産で、小さな壷でつけた青菜である。江南にきたら必ずたのむようにしている。酒は紹興酒にした。蟹に白酒はあまりあわないような気がするのは筆者だけだろうか。この蟹の食事本当に満足だった。値段のほうも、数名で囲めば、日本円で一人5000円ですむと思う。300元もあれば大丈夫ということである。物価の高い上海で考えれば、お安い買い物だと言える。上海蟹はやっぱり美味しかったと天邪鬼も脱帽であった。

その晩、どうしても気になるところに行った。JALの機内の案内でみた銅川という水産市場のことである。先の新光酒店などは直接生産地と取引すというが、この食の都上海を支える水産市場をぜひ見てみたくなった。上海市の西北に位置するこの市場、できたのは改革開放後のようだ。この24時間営業の市場、タクシーの運転手の話では夜の10時からが本番という。人はその時間から集まり始め、引けが朝の4、5時というのである。乗りつけたのが夜の7時だった。それでも充分に活気があったのだが、まだ商売をしているというよりも、売る側が準備をしているといったところ。銅川路からわき道に入ると、蟹、蟹、蟹、まだ縛ってもいない、いまとってきたという感じの(やや小ぶりの)蟹。これが皆上海人の胃袋にはいると思うと食の偉大さをあらためて実感する。場外のようなところでは、どうも市内の一般客も来るようで、買わないかと声をかけられる。そこでは、ワタリ蟹もいるし、貝類、一般の魚類も売られている。値段はもちろん書いていない。すべてやりとりの中で決まる。食いしん坊は、当然こうしたものを食べたくなる。すると、当然のように市場で買ったものをそのまま料理してくれる店が出現。釧路のようである。その店は、九龍塘漁村(銅川店920号、021-62658977)。異常に込んでいたし、たいへんな熱気。きっともともとこのあたりは水郷地帯だったのだろう。水郷地帯特有の地割り。本当に何かの寝床のように長細く奥行きのあるその店で、スペースは見かけよりもずっとあるのだが、席がなかなか空かない。みんな手にいま市場で買った海鮮の入ったビニル袋をもって待っている。待つこと一時間。やっと席が空いた。こちらはもう蟹はいらないので、よく北京の行きつけの温州料理屋で食べるフライにすると肉がクリーム状になる魚、貝類、すっぽんをもちこんだ。それぞれ料理方法を指定する。これは揚げて塩コショウ味、これは清蒸、これは清沌といった具合に。あとは青菜と酒でおしまい。店内は異様な熱気である。サービスはやや粗いが、それもまた市場の店的雰囲気でいい。それぞれ本当に美味しい料理となってでてきた。特に30元(500円)程度で買ってきたすっぽんは、本当に臭みのない、きれいなスープになっていた。「すっぽんがこんなに美味しいとは知らなかった」というのが同行者の弁。本当にそうかもしれない。会計を頼んだら値段は108元(1500円)だった。材料費別といっても、異常な安さだ。しかし、この市場、衛生面云々を問題にしなければ、これだけの活力が維持できているのだから、相応の機能性を有しているということであろう。日本の企業もここに直接食い込めればビジネスチャンスがうまれていくるのではないか。・・・これ以上、本当に何も腹にはいらないくらいにまで飲み食いして帰途についた。

しかし、翌日大風邪をひいて発熱。あまり慣れないものは食べ過ぎないほうがいいのかもしれない。天邪鬼の霍乱であった。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次
閉じる