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アジア政治論・質疑応答(5)

アジア政治論・質疑応答(5)

■ 授業のすすめかた
(1) いまだに回答メイルが来ないのは質問がくだらないからなのか?(4年男子)
⇒質問は個々人に返答しているわけではありません。まとめたかたちで返答しています。また質問がくだらないとかいった評価はおこなっていません。以前いただいたアドレスが誤っていたのではないかと思います。あらためてお知らせください。
(2) 質問への回答を授業中に回覧して欲しい。(4年女子)
⇒そうします。

■ 時事関係
(1) 対中ODAは悪いとは思わないが本当に軍事目的で使用されているのか(4年男子)。
⇒無論、直接戦車を買ったり、航空機を購入したりしていることはありえません。しかし、たとえば日本が道路などのインフラ整備のためにおこなった援助があるときに、その道路が軍事目的に使用されないとは限らないという点で、軍事物資の輸送強化に貢献しているという言説が出てくることになります。また、たとえば消防関係の援助をしたときに、最新の消防車が結局武装警察に属することになるケースがあります。武装警察は軍事組織で、放水車がデモなどの鎮圧に利用されるケースもあるわけですから、これも軍事的な援助であるという批判を受ける可能性があります。
(2)『中国時報』の新聞について、小泉の靖国にせよ、胡の訪米にせよ、中国は比較的低
姿勢。その背後には内部政経問題の圧迫と、世界的な民主主義の勃興と右派反共勢
力の強大化があるという方向で語ることができるか。(特別聴講生)
   ⇒中国の政経問題は、第一に共産党の政権維持、第二にナショナリズム、第三に民主主義など世界標準への対応ということになると思います。ナショナリズムについては、中国国内では共産党が代弁者になっています。日本におけるナショナリズムは反共というか反中国です。民主主義については、中国はぎりぎりまで言い訳することになると思いますし、このあいだのアフガニスタン問題などのように、ほかの部分でアメリカに譲歩して人権問題を言われないようにすると思います。
(3)これからは中国の時代なのか?(3年男子)
⇒ひとつの覇権国家が全体を支配するといったようなことはこれからの世界ではあまりないと思われます。そうした意味では、中国だけが勝ち組ということはないでしょう。中国自身も「多極化」ということで21世紀を考えています。しかし、あの人口と国力ですから、ひとつの「極」になることは明らかです。ただ、中国が「極」になると日本が「極」でなくなるというわけではありません。別に東アジアというパイは定数ではなく、またそれを分け合うという構造ではないわけです。共存共栄は十分可能ですし、お互いがお互いの富を増やしながら発展することも可能です。どちらかが増えるとどちらかが減るというものではないのではないでしょうか。

■ 授業内容
(1) 中国共産党のおこなっている自己正当化はすべての王朝のおこなっていること。前王朝の史書を編纂することで自らを高めるのか。(3年女子、M3男子)
⇒史書編纂は自己正当化ということもありますが、必ずしも我田引水的というわけでもありません。あまりやりすぎると、次の王朝にめちゃくちゃに書かれますので。
(2) 中国では軍隊がすべてを決めるのか(4年男子)
⇒これは難しい問題。いわゆる清朝など歴代の王朝では、軍人の専横を防ぐために科挙官僚側に権力をもたせることがおこなわれたものの、19世紀以降の「軍事化」によって、清朝の末年から民国期にかけては軍事勢力を掌握しているものが権力を得ていました。中国共産党が人民解放軍を自らの下に置きながら一党独裁を維持しているのもこの名残といえます。しかし、いわゆるシビリアンコントロールがないのかと問われれば決してそうではなく、軍人が政治の前面に出てくるということもありません。
(3) いまの中国領土内の歴史に関する日本の教科書の記述で、中国共産党の解釈に依拠している部分があるのか。(文3年女子)
⇒中国共産党の歴史観を反映した記述としては、中国の近代史の部分について、やはり革命史観で記述されている教科書が多いということがあるでしょう。また具体的に中国側から圧力がかかった話ということでは、清朝時代の中国の版図を示した図について、必ず台湾もその中に含めるようにということがありました。
(4) 中国を○×で語ってはいけないという話が結局理解できなかった。(4年男子)
⇒授業をしていた側としては悲しくなりますが、要するに日本の言論では中国を等身大で語ることなく、イメージのなかで論じているということを言いたかったのです。
(5) 言論・集会・結社の自由が制限されていても日本より自由に感じるというのは想像できない。(4年男子)
⇒想像できないのが普通だと思います。民主主義的な諸権利とか、政治参加とか、そういった観点から見れば、中国社会はきわめて不自由です。しかし、社会のなかで個々人が自己実現をしていくとかいう観点にたつと、日本のような目に見えない規制が少ない分、生活していて自由に感じるのですね。
(6)共産党員になるということは?職業なのか?給料は?(3年女子)
   ⇒なるほど。こういう質問はちょっとカルチャーショックです。私の時代にはやは
り日本共産党員の学生がいましたから。党員になるということがどういうことか
それなりにわかっていたんですね。まず党員になるということと職業は基本的に
無関係です。党員の一部は党で働いたりしますが、それはほんの一部分です。そ
れから、党員は各職場で指導的な位置を占めます。その職場の党員のトップであ
る党書記は職場の表向きのトップよりも力を有していることが普通です。
(7)「恢復中華」というスローガンは領土を取り戻す運動か。(4年女子)
   ⇒この点は説明が不十分であったと思います。領土回復を目的としていると明確に
語ってはいませんが、失った国家の威信を取り戻すという抽象表現をとられると、
やはり領土的な問題が含まれているのではないかと感じます。
(8)少数民族に対する政治的配慮は?少数民族の自治区という概念について聞きたい。
(4年男子)
   ⇒少数民族に対する差別は確かにはっきりとしています。明文化されていないもの
    の実質的な要職はすべて漢民族が掌握しています。ただ、制度面ではたとえば「一
    人っ子政策」において少数民族は二人まで子供が認められるなどということがあ 
    るので、最近では少数民族に鞍替えする漢民族も増えています。また、経済的な
    面からみれば、少数民族のすむ地域の所得が低いということがあります。これは
    教育水準の影響もありますし、上記のような漢族中心の社会構造の問題もありま
    す。自治区については、その地域を民族の自治に任せているようなイメージがあ
    りますが、内モンゴル自治区のように数多くの漢族が移住したためにモンゴル族
    が少数派になるケースや、チベットなどのように実権をほとんど漢族が掌握して
    いるケースもあります。いわゆる多文化主義的に考えていくと、制度的にはたい
    へんマルチカルチャラリズムに合致しているように見えるが、実態は強権的とい
    ったところでしょうか。
(9)中国は自由で日本は不自由か?(3年女子)
   ⇒「日本人が人の目を気にする」のは貧しい時代の名残である、という御指摘です。
    確かにそういう面があるのかもしれませんし、「貧しい階層は自分というものを
    もたない」という現実的なところがあるのかもしれません。しかし、中国では貧
    しくても自由に自分の言い分を主張しようとするんです。このあたりは中根千枝
    さんがタテ社会論などで早い段階から主張されてました。豊かになると個人主義
    で自由になるという面もありますが、豊かな者どうしが横並びになるという面も
    あります。中産階級がうまれて個人の意見を言うようになり、そしてそれが公の
    議論につながり公共性が出現、そこに市民社会が現出されるという政治的な自由
    論でいえば、中国は自由がないと思いますが、個人が如何に生きるかという点で
   は自由だと思います。この点は言葉では説明し尽くせない部分があります。
(10)いまの中国人に中華思想はあるのか?(3年男子)
   ⇒中華思想の定義にもよりますが、自分の国が世界の中心だというレベルのものは
    あまりないと思います。あるとすればナショナリズムからくる周辺諸国に対する
    優位性ですね。御指摘のように、多くの中国人は日本人の祖先は中国から渡った
    と思っていますし、日本語も日本文化も中国のそれの亜流であると思っています。
    小生も中国にいるときに、御前の祖先は中国のどこから日本に渡ったのだという
    質問を受けたことが何度もあります。あまり議論すると大変なことになるので、
    適当に誤魔化すのが常でした。(このような話しが友好論の基礎になっているの
    で)

■ そのほか
(1) 客家とは民族か?(3年女子)
⇒「漢民族」という民族が存在しているとすれば、その下のひとつのエスニックグループということになります。唐末期代の北方諸民族の進出により、中国北部を離れて南に移住した集団が各地で客人として遇され、また彼ら自身も集落を形成して、他とは異なった言語(客家語)、習慣(特に埋葬、食習慣)などを維持したことから、現在にいたるまで残ったとされています。気質的には勤勉さ、質素倹約という面が強調され、リークワンユーや李登輝、鄧小平など多くのリーダーを輩出しています。客家は広東省梅県、四川省などに数多く分布しています。客家料理は酸味が強く、また山間部の食材を使用するとされます。台湾の場合、大部分が梅県客家で、新竹・苗立・桃園などの西北部と美濃など台南の一部に集中して住んでいます(ただし李登輝は福建北部の客家の系統)。

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