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第13回アジア政治論質問・回答

第13回アジア政治論質問・回答
川島 真

◆【授業の方法について】

◆【第12回目の金洪雲・人民大学副教授の講演内容について】

1. 中国の農業問題について

中国共産党のバックに中国の農民がいて,日本の自民党のバックに日本の農民がいる。よって、農業問題は政治問題となる。とうのはわかったのですが、現在アジアの農業はむしろ経済を全面に押し出そうとするから悪くなるのではないのでしょうか。例えば日本に農作物は品種改良等で色々な品種が出ているといわれながらも、トータルの品種はむしろ減ってきていると言われます。しかも米の「コシヒカリ」が全栽培面積の約40%という歪んだ状態です。中国でも「売れるから」という理由で農業を進めると、モノカルチャー「的」栽培にたどり着いてしまうのではないでしょうか。アジアそれそれの気候・風土にあった、作物を栽培するように、それこそ政治的な努力(駆け引き)をして農作物供給のバッティングを防ぐことが必要ではないでしょうか。(学部4年学生)

⇒WTO交渉の中で、二つの論理が常にぶつかり合いました。一つは市場原理とでもいう論理で、今ひとつは貴方も言っている所謂風土論です。一部の農業関係国は、こと農業に関してはこの風土論の所謂農業の多面的機能論を強調してきました。しかし、WTOの交渉のなかで、主導権を握っているのはほかでもなくアメリカでした。そのアメリカにとっては、風土論的な論理が貫かれると困ることになります。夥しい過剰農産物の輸出によって処理することが出来なくなるからです。したがって、国際的にこの問題を政治的に解決することは不可能に近い。しかしながら、貴方が言っていることについては、理解しています。また風土論という意味ではなく、ほかの意味で(農産物輸入国の国民的な感情への配慮)地域的に(例えば東アジアにおいて)農産物の問題を政治的に解決することには賛成です。事実農産物交渉の水面下ではそういう動きもなくはないのです。ただし、すべての人が国内政治に目を向きすぎると、そのようなゆとりと配慮がどこまで行き届くかは不明ですが。

2.中国の水不足と農業

中国では水不足が深刻で農村部では銃撃戦が水争いの中で起きたこともあると聞いたのですが、今後、水の売買は一大ビジネスに発展するでしょうか。また、経済成長にとって水不足は今後、足かせになっていくでしょうか。また農村部で銃器などは、事実上野放しのなのでしょうか。(学部4年学生)
⇒確かに、水争いの問題は現に存在しているし、銃撃などの話もたまには聞きます。しかし、銃を野放ししているわけではなく、ある意味で銃に対する規制は日本以上かもしれません。なぜなら、そのような状態を一番望んでいないのが、中国政府自身ですから。 水がビジネスになるかどうかは知りませんが、またたとえそういうふうになるとしても、個人的にどうこうできるものでもないと思います。ただ、経済成長の足かせになるのは確実でして、現に中国政府が行っている大事業の一つ「南水北調」(南の豊富な水を北の水不足地域へ運ぶ)がまさにそれを恐れて行っているものです。

3.日本人の米への拒否反応

ほうれん草などの野菜については日本向けの野菜を作ることにより輸出し、成功をしているとは思う。しかしながら講義では野菜についで米までも日本に輸出し、その成功するであろう理由として価格が安いからということを挙げていた。だが、タイ米の時をみてもわかるように、日本人は日本の米以外に拒否反応があり、現に日本米のほうが美味しく思う。この点、日本に米を輸出する方向で考えている中国政府はどのように考えているのか。(学部三年学生)

⇒一つ忘れてもらっては困ることですが、日本へ輸出した農産物の9割以上が日本企業の手によって行っていることです。中国政府がたとえそういう考えを持ったとしても、日本の複雑な流通システムの前にはたちまち敗退することは火を見るより明らかです。したがって、中国産米を日本へ輸出するかどうか、現実的な問題として、これは日本企業が判断することになります。日本企業は何によって判断するか、それは利潤が出るかどうかによります。米という場合、それはインディカとジャポニカこの二種類に分けられています。日本人が食べているのは主にジャポニカで、タイ人が食べているのはインディカです。そういうわけで、ジャポニカを食べる日本人がタイのインディカ米を好まないのは当たり前のことです。しかし、ジャポニカを生産する地域は日本だけではありません。日本以外に主な産地は朝鮮半島、アメリカ、オーストラリア、タイの東北部そして中国の東北部です。1994年日本が緊急輸入したのは、一部のアメリカ米、中国南部米、タイの香り米(インディカ)です。つまり世界で栽培している品質の面でも日本産米と伍する米は輸入していないのがわかります。これは明らかに日本の農水省の食糧庁が戦略的に行ったことですが、それによって日本人が自信を強めたことは確かです。しかし、このような策略は結果的にいいかどうかは、わたしは知りません。これは日本の皆さんが判断することです。ただし、一つ言えることは、どんなことにせよ、驕るものが最終的に負けることは歴史が教えているところです。

4.野菜の輸出について

野菜の輸出について、省レベルで日本向けの野菜をつくるように推奨しておいて、日本が輸入を禁止すると野菜を作った農家と日本企業の間の個人的な契約だとするのは酷ではないか。輸出が成功し、農業収入があがれば中国政府の政策の成果とし、失敗すれば日本企業のせいにして切り捨てるのはあまりにも不公平ではないか。       (学部三年学生)

 ⇒どんな本、或いはマスコミの宣伝の影響を受けたかは知りませんが、中国の省レベルが日本向けの野菜作りを奨励するとのことは聞いたことがありません。中国産の野菜は2億トンでして、日本へ向けたのはその中での僅かの130万トンに過ぎません。このようなわれわれから見たら微々たる量のものが輸出できたとして、政策の成果だと自賛する人がいたら、それは笑止千万なことです。野菜輸出及びその他の農産物輸出は、これは主に企業と個人間で行ったことだけは事実です。政府が関わる事柄でもないし、関わったこともありません。なお、ついでにいいますが、日本には夥しい中国に関する情報が提供されているようですが、その中には例えば「中国のどこそこの米戦略」というようなタイトルのものをよく目にかけます。しかし、果たして中国の一地方自治体がそのような戦略を持っているのかどうか。正直に言って、それが事実なら、嬉しく思うかもしれません。しかし、そのようなものを持っていないのが現状でとしては情けないと思うのがしばしばです。中国の無能な地方自治体の連中がこのように自分たちが持ち上げられたと知ったら、さぞかし嬉しくてたまらないでしょう。しかし、それが事実でもないのに、さも本当にあるように書き立てる人がいるとしたら、その意図するところがどこにあるのかは、おのずとわかるものです。そして、これはわたしが日本の皆さんに会うたびに与える助言ですが、ご自分の目で確かめることが肝腎だと思いますが、果たしてどうでしょうか。

◆【第13回授業内容】

インドとの外交の話で一部のメディアにも出ていましたが、パキスタンの他にアフガン(+イラク)の問題も範疇に入れて考えているのではないでしょうか。今までと違って「ここにも米国の顔!」が(東アジア・東南アジア・ロシアの他に)でてきたので、もめ事はゴメンです、と印パと適当に距離を置こうとしたという考えかたは正しいでしょうか。(米国が出てくると適当に距離を置いてチャンスを待つというしたたかな姿勢が感じられますので)
                                            (学部四年学生)

⇒もちろんそうですね。中国は周囲の国々と関係を調整し、ある意味でアメリカの影響が直接中国の国境地域にもたらされることを防ごうとしています。ヴァッファーをつくろうとしているのですね。また、アメリカ以外の脅威は極力除くという努力も怠りません。インドとの場合がその典型です。また局地的に言えば、中央アジアからアフガニスタンについては、「上海5」があります。しかし、南アジア方面については、従前のパキスタン一辺倒では最早通用せず、ここしばらくインドとの関係改善に務めてきました。ただ、中国は表向きはともかくアメリカとの友好を維持し、何があってもアメリカと対抗するようなことはしないと思います。

【そのほか】

日本の防衛費は中国の軍事費よりもはるかに高く、その点で中国に対して脅威を唱えることには多少無理があるとの話でした。しかし、防衛費の大半は人件費らしいのです。確かに自衛隊は、最新兵器を揃えていますが、実戦経験が無いことも含め、中国が本気で日本を攻めたら、自衛隊のみでは難しいと思うのですがどうでしょうか。さらに、現在の自衛隊は、失業対策として入隊している人も多いと思うので、本当に外国に攻め込まれたら、愛国心など期待できず、逃げ出すと個人的には思うのです。杞憂でしょうか。
                                            (学部四年学生)

⇒日本の軍事費が高いという指摘に対する反論として、以下のような議論があります。「まず、日本の防衛費(456億ドル)は、周辺諸国よりも遥かに多い(中国の3倍)。しかし、兵数について見れば、日本は23万人強に過ぎず、100万人以上いる中国とは逆に比べ物にならない。通常兵器については、その輸入額で見ると日本は最も少ない。このような状況下で、防衛費が膨らむのかといえば、日本の給与が高いからであり、また在日米軍のための経費負担などがあるからである。また、中国について見れば、たとえその国防費が145億ドルであっても、物価換算、国民所得に対する比率で見れば米国並になる。従って、日本の防衛費が高く、周囲に脅威を与えるなどということはない」。この議論は一見正しく見えます。中国の国内総生産に対する防衛費の割合から考えれば、2000年の国内総生産が1兆0799億5400万米ドルですから145億ドルは1.5%前後でしょうか。日本は4兆7623億9500万米ドルに対して456億ドルですから、1%前後ということになるでしょう。中国は兵数の割には軍事費の率が高くないですね。また兵器輸入額ですが、日本が少ないということがどこまで指標になるでしょうか。比較的新しい兵器を備えている日本と根本的な近代化をしなければならない中国。そして、TMDなどの研究費などは、中国から見れば最先端の軍事技術の開発経費に見えます。そして在日米軍の件は、「このために防衛費が嵩んでいる」と言ったところで、それが中国側からみて脅威にならないということにはならないでしょう。日本から見て、中国の兵力やナショナリズムが脅威に「感じる」ことはあるかもしれませんが、中国から見て日本は決して安心できる存在ではないということをまず理解して欲しいと思います。また、人件費が防衛費の多くを占めるということ、中国にも当てはまるのではないですか?あと、「本気で攻めたら」ということになると、御答えのしようがありません。日本が「本気になったら」?それから、もしロシアが「その気になったら?」こういう「本気になったら」とかいうことは思考の忌まわしきスパイラルを生み、やがて妄想へと発展します。また、相手を良く知り、同時に自国のことをよく見極めることも重要です。戦前、日本の陸軍には多数の農村出身の次男、三男が食を求めて軍隊に入りました。彼等は果たしてナショナリズムとは無縁であったでしょうか。社会から阻害された人々が軍隊を構成するなら、そこに「愛国心は期待できない」と言いきれますか?また、人民解放軍とて同様です。農村部の次男三男が多数入っています。「逃げ出すと個人的には思う」のは自由ですが、結論に至る前にいろいろな要素を勘案しましょう。

北海道のように、これだけ雪が降り積もる気候の場所にこれだけの人口がいるところは世界にあまり無いという話を聞きました。また、韓国のソウルは日本の仙台と同じくらいの気候で、雪は降れども積もらないらしいのです。中国の華北や東北部は冬は大変寒そうですが、TVで見ると雪さえあまり降らず大変乾燥していそうですが、北海道と類似した気候の地域はないのでしょうか。(学部四年)

⇒授業の最初のほうで気候図などに関するプリントを配った筈です。それを御覧ください。大陸部では、北海道のような湿潤な気候はありありません。むしろアメリカ東海岸の北部のほうが北海道に近いですね。

最近日本の警察の検挙率は、外国人犯罪の増加が主因で低下が著しく危機的だと思います。中国の表向きの検挙率はどのようになっていますか。また実態はどうなのでしょうか。また。黙秘権や取調べの際の人権侵害などあるのでしょうか。(学部四年)
⇒まず刑事訴訟法については、鈴木賢ほか『現代中国法入門』[第3版](有斐閣、2003年)の刑事訴訟法のところを読んでください。中国の犯罪検挙率のデータは持ち合わせがありませんが、外国人犯罪の増加は、実はバブル期末期から見え隠れしていました。それがここ数年一斉に報道するようになったのです。そうした報道のあり方と、あなた自身の意識の問題を考えましょう。外国人犯罪だけが原因ではありませんから。

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